異業種への進出 農商工連携に特徴的動き (2010/9/4 山陰中央新報)

しまね産業振興財団アドバイザー 堀江 譲

 前回、この欄で、山陰地域のものづくり産業は「下請け型から脱却せよ」と述べた。企業体力の維持と雇用確保のために、新分野への進出は避けて通れない。新分野には「新しい産業の創造」とともに「異業種への進出」もある。島根県内で特徴的な動きがある農商工連携を例に、述べてみたい。

 農商工連携は、経済産業省と農林水産省が連携して立ち上げた施策で、地方経済の基幹をなす農林水産業と中小企業が連携し、新商品・新サービスの開発による相乗効果の発揮を狙っている。

 両省共同の認定制度は2008年に始まり、出雲市産の果物(ブドウ、イチジク)を活用したドライフルーツや、雲南市産のサンショウを使ったパスタ、産学連携による川本町のエゴマの葉などの機能性食品が認定されたが、事業効果を高め企業収益につなげるためには、国や自治体のさらなる支援が必要だ。

 島根は素材に恵まれた土地だ。桜江町産の桑茶には抗動脈硬化作用と血糖値上昇抑制作用、津和野町、匹見町産のワサビ葉には抗肥満効果、川本町産のエゴマには認知症改善効果が認められているほか、多くの機能性食品商品がある。

 県の新産業創出プロジェクトでも、機能性食品の生産、加工、販売の拠点化を推進している。県は、インターネット通販や大都市圏での展示会、食品素材の安定栽培・供給のシステム構築、健康食品企業との連携を模索している。また、食品のみならず、化粧品やせっけんなどへの展開も期待されている。

 ただ、この分野は全国的な競争が激しい。今後、市場競争力を高めてブランド展開するには、医学との連携による安心・安全性の保証や、理学の協力による水質・土壌・大気などの自然環境と機能性成分の裏付け、公的機関の品質保証認証が最も効果があるだろう。

 農工連携で注目を浴びているものに植物工場がある。島根大学における人工照明や地中熱を利用したワサビの養液栽培システム研究や、農業参入支援企業(出雲市)の農業用フィルム技術開発などが、経産省の補助事業に採択された。

 LED照明を使った植物工場への新規参入も始まったが、解決すべき課題はある。LED単独照明で光合成などに必要な光エネルギーを賄おうとすると、相当量の電力と設備投資が必要となる。低照度でも栽培できるLED照明専用植物苗の開発や、太陽光との併用が推奨される。また、生産コストに見合った付加価値の高い薬草やハーブ栽培も狙い目だ。

 新分野への発展を後押ししてきたのが県農業技術センター(出雲市)、県畜産技術センター(同)、県中山間地域研究センター(飯南町)、県産業技術センター(松江市)で、産業界のニーズをくみ取って技術開発、商品化を進めている。全国では公設試験研究機関の統合や法人化が進んでおり、今後は組織のあり方も議論しながら、産学連携のてこ入れが必要だ。

 海外では日本の農林水産物・食品に対する需要が高まる。県はJAとともに1次産品の輸出を促進。EU、北米、台湾向けのボタン(松江市)、台湾向けの薬用ニンジン(同)、アメリカ、韓国向けの仁多米、中国向けの水産物、台湾向けの果物(益田市)などあり、販路拡大が最大の課題だ。

 生産基盤の足腰も強化しなければならない。しまね農業振興公社は異業種による農業生産法人の設立を支援し、市町村と連携して融資を実施。すでに25社が農業参入した。12社が建設業や建設機械リース業、残りは食品企業や農業資材の販売会社、流通業者である。

 異業種の農業参入は、耕作放棄地を抱える集落の保全と、公共事業削減による地域経済の落ち込みを緩和する狙いがある。農業の事業化には資金繰りや、栽培技術、経営手法、市場展開などのノウハウ習得が求められる。事業化に当たっては、投資に見合った収益をあげることが可能かどうか、公的機関や金融の支援を活用して、見極めることが肝要だ。

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 ほりえ・ゆずる 1943年出雲市生まれ。工学博士。元島根産業技術センター技術次長。しまね産業振興財団参事(技術コーディネーター)を経て、現在、技術アドバイザー。(社)発明協会特許流通アソシエイトも兼務。

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